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決壊 / 平野啓一郎

決壊 / 平野啓一郎_d0054361_2332386.jpg決壊 / 平野啓一郎_d0054361_2333474.jpg あぁ、遂に読み終わってしまった。とっくに上巻終わっていたのだけどあまりの面白さに下巻をずっと我慢していたのだったが、積読棚の中から呼んでいたのだよ。

 「読んで…読んで…。」って。

 下巻を手に取ったらあっという間に終わってしまった。そりゃ併読本を全てストップして読んでしまう面白さがこの作品にあったのだから当たり前か。

 「面白さ」っていわゆる一般的な面白さとはちょっと違うのだけど、僕にとってはとにかく「面白い」と表現するしかないくらい楽しかったのだ。自分にとっての理想の文学がここにあった。いわゆるポストモダン文学に対してのアンチポストモダンとも言えるベタなアナログ的小説なのだ。

 そうそう、なぜか「このミス」のチャートにインしていたので、年末に本屋の今年のミステリーベスト棚に並べられていた。確かに広義ではミステリーと呼んでも可能かもしれないけど、どちらかと言えばドストエフスキーの「罪と罰」「カラマーゾフの兄弟」がミステリー風に描かれているような方法論で書かれた作品なので、純血にミステリーだと思って買った人はその表現に重さに愕然としただろう。

 この作品で語られている内容を語ることはとても重要なことなのだろうし、現代と言うものを抉り出していると捉える事は簡単だ。Amazonの紹介も
2002年10月全国で犯行声明付きのバラバラ遺体が発見された。容疑者として疑われたのは、被害者の兄でエリート公務員の沢野崇だったが……。〈悪魔〉とは誰か?〈離脱者〉とは何か? 止まらぬ殺人の連鎖。明かされる真相。そして東京を襲ったテロの嵐!“決して赦されない罪”を通じて現代人の孤独な生を見つめる感動の大作。
って「感動の大作」?嘘だろう。こんな紹介まずいっしょ。僕はそういった感動はしなかったし、この重い物語をただそのまま重く感じて楽しんだわけじゃない。内容そのものについて書くつもりもないのだ。

 それよりAmazonの感想が賛否両論というより否が多いのに驚いた。「今の自分の心に必要な作品だったかと問われると、それは違います」とか「本書のために費やした時間とお金を返して」とか、う〜、こういう作品は人を選ぶのはわかるけど、☆4つとかあげていてもこういう感想なのか。まぁいいや。感動の大作とか書かれて読んだらこういう感想かもしれないしね。誰が死んで犯人が誰でみたいな事を求める作品ではないのだから。(それにしても東野圭吾の凋落振りは凄いもんだ、もうこの先新作を読むのをやめようかなぁ。)

 「決壊」とはまさに決壊を描いている。登場人物達の決壊。それが行き着く先は主人公の「決壊」だったわけだけど、それぞれの「決壊」絡み合い方が猛烈に好き。

 それはまるでRPG複雑なマップを歩かされて、そのマッピングが終わったときにデザイナーの仕掛けた複雑なトラップが白日の下にさらされた時の感動。

 あれだけ多くの登場人物がそれぞれ「決壊」を抱えて絡み合い、それぞれの「決壊」の果てがああもうまく書き上げられるなんて、驚きでしかないのだ。WEBの使い方も当たり前の使い方なのだけど、果たしてここまで巧く描けた作品があっただろうか。

 饒舌に「近代思想史について」「政治問題」そして最後には「幸福」を語り出す瞬間の歪な美しさはこの上ない。このいきなり教条的に語り出す主人公は間違いなく平野氏そのものだ。この部分が嫌いな人がどうも多いみたいなのだけど、僕はこの部分が凄く好き。(最初から物語である限り映画も小説も虚構であるわけだから真のリアリティはないという前提での)リアリティみたいなものを求めるならば、この部分は全くおかしな部分なのだけど、こういう歪さの美しさって惹かれるのだ。

 例えばカラオケでどんなに歌が上手くても人を感動させる声質が無ければダメで、声の魅力はある歪んだ美しさにあるのに似ているのだ。少なくとも僕にとっては。

 ドストエフスキー的な部分は指摘する必要もないくらい多いし、おもいっきりベタなのが好き。犯人である「悪魔」なんて「罪と罰」のラスコーリニコフだし、主人公はイワン・カラマーゾフ?元々三島をPasticheしちゃうような平野氏なので、今回もやったなってほくそ笑んだのは僕だけじゃないだろう。登場人物全体がイライラした感じももろにドストエフスキー。それをうまく現代社会という枠に入れ込んでいて喝采するしかないのだ。

 うぅむ、これ以上書くと内容の事触れることになっちゃうな。内容も大好きなんだけど、これ以上はやめておこう。

 「小説の死」を叫ばれる現代で、これほどの作品を書く平野氏、まだまだ読み続けるよ。

 
by kadocks | 2009-01-16 03:52 | Book


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